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「米Googleがカスタマーセンター用AI開発ベンチャーを買収した意味」

(2018年10月26日)

米Googleが10月上旬、AI(人工知能)を使って企業のカスタマーサービスを自動化するツールを開発している、シリコンバレーのスタートアップ「Onward(オンワード)」を買収した。月に1社近いペースで企業を買収している同社にとって買収自体は珍しくもないが、2001年以降、同社が買収した企業すべてを調べている筆者には、何かが引っかかった。もちろん、「AIはコールセンターから人間を駆逐する時期が近付いているのでは?」という観点からだ。

顧客からの様々な問い合わせや注文、時には苦情を大量に受け付けるコールセンターは、相手が人間のため、AIによる完全な代替は困難とされてきた。現在は、オペレータに向けて自動で回答例を表示するなど、人間が行う作業の負担軽減などで活用が始まったところだ。AIに支援された結果として、回答までの時間が短縮され、回答自体もより正確なものになれば、顧客満足度も上がる。もちろん、コールセンターに寄せられる膨大な情報の解析というバックヤードの作業にもAIは使われ始めている。

さて、ここまで筆者は、「カスタマーセンター」と「コールセンター」を意図的に混在させてきた。カスタマーセンターが顧客との接点となる拠点/機能全体を表すのに対し、コールセンターはその手法として「電話」を使って受付を行うもの。他には、メール等のテキストでやり取りするものもあり、むしろこちらの方が多い。Onwardも音声認識機能は持っていないようなので、「今のところ」人間が対応するコールセンターではなく、テキストメッセージへの対応が中心。具体的にはメッセージをAIで解析し、単純な質問にはデータベースから答えを取り出す一方、複雑な質問には対話のフローを自動的に作り、必要ならその後のフォローアップも自動で行う(メッセージを自動送付する)というものだ。

しかし、買収した企業はGoogleだ。Googleアシスタントはじめ、音声認識やAIでは世界最先端を行く。Onwardが持つ機能が使えると判断したなら、コールセンターを含めたカスタマーセンター全体の無人化の方向に直ちに動くだろう。

こう思うのも、これまでGoogle創業以来のM&A案件をずっと見てきたせいかもしれない。

典型的なファクトの一部を記載すれば、

1) Googleの初買収は、会員同士のコミュニケーションをサポートする
ソフトの開発企業Deja。以降、2018年10月までの総買収企業数は228社
2) 総買収金額は累計800億ドル(推定、技術系企業だけに絞れば300億ドル)
3) 買収した企業の従業員数の分布で最も多いのは1-10人および11-50人で、 ともに全体の26%(両グループで過半となる)
4) 買収企業の平均社員数は70人
5) 買収された企業の設立日から買収されるまでの平均期間は67カ月

―― まだまだある。

しかしストーリーとして、以下のように記した方がずっと分かりやすいかもしれない。

少なくとも2001年の初買収から2010年前後までは、買収に見事なストーリー性がある。
即ち、検索から検索連動による広告獲得(売上手段確立)
⇒買検索対象をテキストから画像に拡大(イメージ検索に発展)
⇒検索対象を動画に拡大(YouTube買収に発展)といった具合。
だがこのストーリー性を持った時代は、2008年のDoubleClick買収によるディスプレイ広告への参入、2009年のAdMob買収による携帯アプリ向け広告の強化で一旦終わる。
2013年12月、ロボット好きと言われたアンディ・ルービン氏のもと、一気に8社ものロボット会社を買収。しかし同氏が失脚した2014年以降、ロボット企業はほとんど売却。
つまりわずか数年前までは、「大型あるいは一連の買収が、組織ではなく特定個人の“嗜好”に負う」面がGoogleにはっきりあった。
買収企業の平均社員数は70人
それを踏まえ、この数年は研究開発の効率性を見極めたうえで、ダメ筋はすぐに売却あるいは撤退。AIとクラウド、モバイルの3大分野以外で目立った買収は、AR/VR企業ぐらい。

・・・つまりそのぐらい厳しい選択眼の中で買収されたのが、「カスタマーセンターを自動化(無人化)する」という製品を有するOnwardだったわけだ。目的が当たりはずれの大きい新事業開発ではなく、自動化/無人化という目的が明確な買収だっただけに、「あ、これは何か違う」と思ったのだ(ま、外れるかもしれないが)。長い間、取材やヒアリングなどの調査をすすめていると、時々こんな「ピンとくる」時がある。これもよく言えば「経験値」かもしれない。

宮嵜清志(株式会社テクノアソシエーツ 取締役 副社長)

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